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「いっぺん、明るいところで見てみたかッたンだ、」 などと阿部に言われて、三橋はこく、と小首を傾げた。そうしたら、可愛い恰好すンなッつと、とぺちん、と額を叩かれて、慌てて頸を真っ直ぐにすると、いちいち直さなくていいし、とまた、ぺちん、叩かれた。 りふじん、と呟いたら、よく知ってるな、その言葉。と馬鹿にしたみたいな笑みで返される。しって、るよ!と少しばかり(それは平生、世間の平均にも及ばないような三橋に比べて、)剣呑な視線を送る。 三橋は、そうだ、ちゃんと知っている。理不尽、と言うものは、肉厚のてのひらで、三橋の頭をぺちん、と叩くもの。阿部のてのひらの異名であること。 「見たいッて、なに、を?」 はなしを、戻すと、 「お前の、はだか。」 阿部は平然と言ってのける。はだか。明るい陽差しの降る場所で、それはいっそ清々しい。 余り広いとは言えない非常階段の、陰になったような所に座り込んでいたものだから、そろそろおしりが冷たくなってきていた。コンクリートの足場。並んで座る、側の阿部の、肩に触れるところだけ、ほとほとと、あたたかい気がする。 十月を過ぎれば、秋の気配よりも、控えた冬を思うほど、しん、と冴えるように空気は冷たかった。陽差しがあっても、空気は澄んできている。お陰で、日向のそらは、高く透いてきらきらしているけれど、階段の、日陰の部分は、そうして湿気を孕んでいるのか、とても、ひたひた、する。 「ハイ、三橋ほら、…ばんざーい、」 言われるまま、バンザイ、の格好をとったら、着ていたベストの端を掴まれて、上へと手繰られ脱がされた。はだか、をどうしても見るらしい。 その阿部の器用さと言ったら、年末よくしてる、ほらグラスを倒さずにテーブルクロスを引っ張る、隠し芸の。あれみたいだな、と三橋はぼんやり感心する。 三橋がうすらぼんやり、している内に、阿部は三橋のシャツを引き出して、下からぷつぷつ、釦を外してゆく。その間、耳の辺りを舐ったり、頬にくちびるを押し付けてきたり、ささやかな声で、甘やかなことを言ったり、する。例えば、すき、とか。可愛い、とか。ああ!そういう、恥ずかしいこといわないで!と三橋が暴れてしまいたくなるようなことを、阿部は耳の孔に、吹き込む。 まるで、絵本のお話のよう。(王様の耳は驢馬の耳!)そんな虚ろな孔のなかに声を吹き込んで、自分だけ満足して、(阿部くんて、実はすごく勝手なひと!)あもう、ああもう、と三橋は上履きの足をじりじりと震わせる。手許も見ずに釦を外すなんて、そんな器用なこと、ああもう、ああもう。腹の奧がむずむずとこそばゆい。叫び出したい。(それこそ、) おおさまのみみは、ろ・ば・の・みみー! ……… |
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2005/11/23発行「一千一秒物語」より「きんのひなたにけもの」(一部) 参照にした表題含む短篇小説三本と、ゲスト様作品を収録 |