まばたきはシャッターのように。




思い出づくりには、あまり、関心がない。なかった、筈だ。
だから、閉じこめたい欲望が涌いたのは、屹度、発作のようなものなのだ。多分。
携帯のカメラ機能だってデフォルトになっている今時分、インスタントカメラを手にしているオレは、何だ。かりかりかり、と歯車のようなフィルムを巻き上げて、「笑って、」と告げる。
被写体は、ぱちぱち、瞬きをきっかり三回繰り返して、それから目を逸らす。赤い頬は可愛かったけれど、それじゃあ困る。
「三橋、コッチ向けよ、」
オレは、ぶっきらぼうに言う。三橋は、逸らした貌はそのままに、眼差しだけをこちらに傾いで見せて照れているのだろう、口許をむず痒げに歪めて、それは、笑いとも何とも、捉えられない、変な顔して、カメラ越しに少し、笑ってしまう。オレは、そのままシャッターを切る。
ぱしゃり、とかろい音がして、フラッシュが瞬いた。続けて、三橋の背けた右頬に、俯けた額に。標準を合わせてパシャリ、パシャリ、と続けて切る。俺の見ているアングルそのままに、焼き付けるひかりの残像は、部室の愛想のないコンクリートの壁や、灰色のロッカーに弾ける。
それにしても、シャッター音はプラスチック製らしい、矢鱈と安っぽさで、おれは、手のなかのそれが今の三橋の貌をとらえた、だなんてあんまり、嘘ッぽく感じて、まじまじ、見詰めてしまう。咄嗟に、言ってしまった。
「もう一枚、撮らせて。」
「え、」
 不服げに眉を歪めて見せた三橋に、文句あるかと目で問う。少しだけ、びくりと揺れた肩は見なかったことにして、「ほら、もう一回、」と繰り返してカメラを構える。三橋は、おずおずとこちらを見て、あの、と声を出す。
「今度は、阿部くんも、」








2005/12/29発行(予定)「SWEETABLE(スウィータブル)」より。
「まばたきはシャッターのように。」
再録含む短篇小説四本収録