船上





(遠く鳴り響くチャイムは、お船の警笛。)
(乗組員は思い々々に席を立ち)


風がおおきくカーテンを膨らませて、まるで帆みたい。
さながら教室は、お船。

うとうとしているものだから、泉の思考は波にゆられるみたくしてさだまらない。波音のようにさんざめいて聞こえる声はクラスメート。刹那、大波のようにどこかで、ワッと、笑い声が涌く。はじけ飛ぶ声は、飛沫。はいりこむ耳にも、眩しい。
休み時間。に、ひとり漕ぎ出す。みたいな、白昼夢。みたいな、航海。ゆらり。


いつも通りのお針子。今日は腕章を繕うのだと腕まくりした浜田が、うつうつ、眠りに捕まり掛けた泉に手をかざすふうにする。
「いーずみ、どした、眠ィの?」
逆光で、手の影ばかり黒々、まるで、甲板から見上げる鴎の影だ。

鴎。

そう、数年前、浜田は泉の鴎だった。空の青と海の青に引っ張られながら、自由気ままとただよう白。当時、ベンチにいた泉は、マウンドに立ち、おおきく振りかぶる浜田のゆびさきから、白い鳥が放たれるのを、幾度となく、みた。
青い空、空を切る、白い鳥。打者と向き合う、束の間の凪。浜田は、






「いずみ?」

衣擦れの音。こちらを覗き込む男から、ほとほと、煙草の匂いがして、ああこの男はもう、野球をする気はないのだなあ、と言うことが窺い知れて、悲しい。口で言われるより、悲しい、と泉は思う。

つばさを痛めたら、鳥は呆気なく空を諦めるものかしら。


視界の端で生成り色のカーテンがうねる。帆が、うねる。
水を被ったみたく、目の前が歪んで、泉は腕に突っ伏した。



「…どしたの、泉。」
「…船酔いしたンだ。」
きんこんかん、と再び警笛。乗組員は全員配置について、あとはいつも通りの航海。漕ぎ出す船の上で、泉はそっと目を瞑る。
目蓋の海には通り過ぎていった鴎の影がゆれた。




わたしのチャイカ









日記より。(5/8)

ところで、これを書いたとき、「ヤー・チャイカ」ッていうことばに、のっくあうとして、
若しサイト名を替えるなら、これだな、とか、思いました。

わたしは、かもめ。

きれいじゃない?