落下する夕方




指を鉄砲のかたちに折って、数メートル先を歩く背中を撃つ真似をする。
「バン、」
ちいさい呟き。この坂の、先の十字路は大きな道路と交差しているから、遠く、近く、車の音がしていて、だから、 今こんなボリゥムで届きはしないのに、俺は、名前を呼んでしまう。
みはし、みはし、みはし。
(こっちむけ)
(うそ、むかないで)

夕映えの赤が眩しい。俺が撃ったのは、目に見えない弾丸。血の散る代わりに拡散したひかりは燃えて、赤い。ただ、赤い。
三橋が振り返った。

「あべくん、」
「…なに、」
「呼んだ?」
オレのこと、呼んだ、ンだよね?と、首を傾いでみせる、三橋の眼差しから逃げるみたく、俺はそっぽを、向く。 向いてしまう。その視界の端っこで、対向車線をチャリ通学の女生徒が追い抜いていく。一台、二台。スカートがひらりと揺れて、 残像ばかり、残った。
重いようないろをした西日を背に背負って、立つ。 陽に染まり、まるで赤いシャツを着て居るみたいな、三橋、俺。
視線をそのまま、三橋を避けて空へと投げる。あやとりみたく複雑に縺れ合う電線伝いに、 じぐざぐと蝙蝠が飛んで、黒い影ばっかりが躍る。
歩数にして三、四歩程。距離という程でもない空間を持て余したのか、三橋が、そろそろ、寄る。 のが、何となく、判った。覚悟を決めて、彷徨わせていた目を、三橋へ、合わせる。深く、息を吸う。 標準を合わせて、そうして俺がすることは、

(あとは、引き金を引く、)

それは、取り返しの付かない、事。

「三橋、」
五センチの上目遣い。忙しない瞬き。とは、別に。三橋の背の向こうで、ひそやかに瞬くのは、アカボシ。 路端の電灯が、その瞬きを、真似るふうにして、ぱちぱち、点滅してから、心細いひかりを落とす。途端、 降り落ちた照明に影が涌き、その俺の影を、三橋が踏んで居るのが判った。右足が、丁度、心臓の辺りを踏みしめている。 じゅん、と血が頭にのぼる。頬が痛痒いのは、充血して、赤らんでいるに違いないからだ。
「阿部く、ん?」
呼ばれる名前に心臓が、潰れるみたく、どくん、音を立てる。夕陽は陥落ちた。西の空の、微かな残り火を頼りに、口を開く。




「俺はお前のこと好きになってもいいの?」

これは、取り返しの付かない事。




「すきなんだ。」









ニッキより。(3/28)

ともだちとして、とても大事だッたり、(この場合、バッテリ、という関係もあッて、)
複雑な、恋愛だとか情欲の思いを抱いてしまッたとき、それを告白するのは、
さぞや、怖いだろうな、おもうのです。