サイコロデイズ







(駅前のモス、ゆるく流れる有線、通りに面した窓際の禁煙席。高校生男子、ふたり。)


「…三橋だったら、あン中では、」
 どれが、このみ、と。阿部が言った。

行儀悪くジンジャエールのストローをくわえ、それを矢印にして阿部が、窓外を指す。その矢印に従って硝子の向こうを見遣れば、女子高生のひと群れが、ここからでは、声なんて聞こえやしないのだけれども、印象として姦しく、おもての路を通り過ぎるところだった。
 阿部のストローから、ぽた、ぽた、とジンジャエールが滴り、トレーの上に、ちいさな水溜まりが出来る。オニオンリングを頬張っていた三橋は、もしょもしょと咀嚼してから少し、考えるそぶり、
「エト、おんなの、こ…?」
「ン、三橋はどんなの、このみ、」
「…どんな、ッて、」
 ごく他愛ないそぶりで、阿部は言う。これに三橋は少なからず、くらんくらんとしたショックを受けた。
曲がりなりに三橋は阿部が好きだった。そうして、阿部も、自分と同じ意味合いでちょっとくらい好いていて呉れているのでは、と期待していた三橋としては、彼の発言はたいそう、複雑な質問だった。(阿部君だって、オレなんかより、そりゃあ女のコの方が好いに決まってる。)(それこそゲンミツに。)
やけくそじみた気分で食べかけの海老カツバーガーをぐい、とくちに押し込み、もぐもぐとくちを動かした。そうすることで、時間稼ぎをする。だって、こうしていれば、余計なことを喋らなくッて、済むから。横目で、ちらり、阿部を盗みみると、指し棒、もとい、ストローはもう、ジンジャエールのグラスの中に戻り、彼の職務を全うしてる。詰まり、ストローとしての。これもまた行儀悪い、頬杖を付きながらジュースを啜り、阿部は未だ、窓外の彼女たちを見ているようだった。
「…かわいいこ、でもいた、の?」
うひ、と力無く笑って見せて、三橋はどうしていいのか分からなくなった。残り二本のポテトをくちに押し込んでしまえば、もう、時間の稼ぎようもなかった。舌に味覚が付いてこない。舌先で芋のざらり、とした感触が砂利めいて気持ち悪い。
「ンにゃ、違うけど、…つーか、何でお前は、」
 泣いてンの、と振り向いた阿部が、ちょっと途方に暮れたみたいな声で言った。「ないてないです、全然、ないてないです。」と、言いながら、ずるずる鼻水が出てきて、すんすんと啜れば、阿部が自分の鞄からティッシュを出す。鼻に押し当て乱暴に擦り当てがてら、口の端かについているタルタルソースも拭って遣った。
「…どうせまた、詰ッまンねーこと、考えてたンだろ、」
「…つッ、詰まンなく、なンかない、よ!」
 だって阿部君のことだ、と。三橋は声には出さずに、呟く。詰まらなくなんてない。ぎゅっ、と目を瞑れば、阿部がぽそり、「いいけど、」つぶやくのが聞こえた。阿部はぼそぼそとポテトを頬張りながら、
「女どものさ、ルーズソックスの足って、アレ、ガンダムに似てね?」
「…ガンダム?」
「ガンダム。」
足ン所に、こう、だぶついてるのがさ、と阿部は、自分のトレーからポテトを摘むと三橋のそれへと、ぽいぽい、放る。「コレ、やるから泣くな、」言いながら、思いついて、そのひとつを三橋のくちびるへ押し込んでやる。されるまま大人しくポテトを含み、もぐもぐ、 かみながら、三橋は未だちょっと強ばったまま、ウヒ、笑う。
「エト、…ザクじゃあ、ないンだ、」
「あー…、ま、どーでもいーけど。」
 信号待ちで佇む少女らをふたりで眺めながら、ひそひそ、きこえやしないのに声を潜めて内緒話みたく、額をくっつけあわすふうに喋ると、馬鹿みたいな会話がやけに大事な話めいてきて、どきどきする。(ガンダムなンて、阿部君そんなこと考えてるんだ。)うかうかと浮上した、三橋の口腔に、押し込められたポテトに味が戻ってくる。
サイコロみたいな現金さが、自分でも可笑しい。
くつくつ喉をふるわせる、阿部の前髪が、日差しを受けてちかちか瞬く。額にぽっかりまるく、差している。咥えた赤いストローを、ぴこぴこ動かして、また、ジンジャエールの金色が零れる。
三橋はそれを見るのが愉しくて、なくなるまでひたすら、くちにポテトを詰め続ける。
「お、三橋、見てみ、」
赤いストローがひょいと空をさす。ごく近いところに飛行機が飛ンでいて、飛行機雲が長く尾を引いていた。えんぴつで引いたみたいな微かな線。眺めながら三橋は、そのまま、赤いストローに吸い込まれちゃいそうだ、等と、馬鹿みたいな事を考える。そうして少し、笑った。
(駅前のモス、ゆるく流れる有線、通りに面した窓際の禁煙席。高校生男子、ふたり。長閑な午后の、完成された風景のひとつとして。)














がんだむのことはわかりません。(…)
でも、似てるわよネェ…?
2005/0227発行「hotch kiss」より再録(2006/0321)